Special Column

日本のカミソリの歴史を
前進させたシック・ジャパン
カミソリ倶楽部
竹内 康起

日本におけるカミソリの歴史の中で大きな変化が現れたのは、第二次世界大戦後15年を経た1960年の貿易自由化からです。それまでは両刃の国産品が全盛の時代でしたが、戦後の日本経済が目覚ましい復興と発展を遂げるなかで海外からの圧力が加わり、シックをはじめとする世界のカミソリメーカーが日本市場にやってきたのです。1960年4月にはカミソリホルダー(柄の部分)が、1962年11月には替刃が輸入自由化されました。

カミソリをはじめ家庭用の刃物の卸業を行う三宝商事の社長であった父、竹内金蔵(1914〜2004年)は、自由化の3年前の1957年に東京・日本橋の百貨店で、駐留米軍人用に売り出されていたシックのインジェクターに出合い、魅了されました。1935年、東京・浅草橋の刃物問屋での見習い奉公からカミソリ商売に足を踏み入れた父は、日本国内でも海外でも、両刃のカミソリが主流だった時代に、刃だけが差し代わるインジェクタータイプの片刃カミソリに他にはない魅力を感じたそうです。

それまでの経験から、ヒゲの濃い日本人には刃の厚い片刃のカミソリが向いていることを察知していた父は、シックの片刃カミソリに惚れ込み、米国のエバーシャープシック社(当時)に、「いくつでもいいから送ってほしい」と全力を尽くし誠意を込めて直接依頼。その熱意が通じ、輸入自由化のタイミングとも相まって大量に輸入することができました。これには、米国のエバーシャープシック社で極東支配人として活躍されたピーター・オリバー氏にも大変なご尽力をいただきました。オリバー氏と父は、オリバー氏がエバーシャープシック社に移籍する前からのお付き合いで、彼が来日する度に親交を深めてきました。そういった経緯もあり、「日本市場は日本人に任せることであり、商品力と販促予算は自分の責任である。一緒にやりましょう」とオリバー氏におっしゃっていただけるほどの信頼関係ができあがっていました。ただ、当時の三宝商事はとても小さい会社でしたから、貿易業務などを服部時計店貿易部に頼み込んだのです。

販売にはさらなる努力が必要でした。日本では国産品が主流で、海外製品にはなじみがなかったために、「外国製品を扱う店のことだから、失敗するとすぐに逃げ出すのではないか」と、業界内で陰口をいわれることもありました。父は海外製品を取り扱うことでこそ、自由競争ができる、正当な商売ができると信じて努力を重ねました。例えば、地方に支店や営業所を設ける際には、直接その土地を購入し、地元の人になじんでもらうところからスタートしたのです。そうして、大問屋、百貨店、刃物・金物店などの販売流通の全国ネットワークを整備。高級品だったカミソリをギフトセットとして百貨店に売り込んだり、350万枚という大量の替刃の試供品をダイレクトメールで一般家庭に直接送る宣伝活動を展開しました。

1970年代に入ると、流通に変化が生じ、百貨店からスーパーなどの量販店へと流れが変わってきました。60年代に米国へ留学していた私は、現地のスーパーマーケットでのカミソリ売り場を視察していたので、その売り場作りを日本でできないかと提案。父からの後押しもあり、売り場レイアウトからディスプレイの方法まで任せてもらえ、受け入れられたことはとても嬉しかったです。こうしたメーカー、代理店、販売店の三位一体の売り込み努力が奏功し、日本市場におけるシックの片刃カミソリが不動のものとなったのです。これには米国のエバーシャープシック社からも驚かれるほどの販売実績を築き上げました。

もう1つ、カミソリの歴史で大きな変革をあげると、1970年代に2枚刃が開発されたことです。カミソリの刃を替えていたスタイルから、カートリッジを変えるスタイルにしたことはとても画期的なことで、それ以降、3枚刃、4枚刃と複数刃のカミソリが続々と登場。2006年の5枚刃発売までの35年間は、肌への負担を減らし快適な剃り心地を追求し続けた、目覚ましい技術革新の時代でした。

インジェクターが輸入されて以降、日本国内における男性用カミソリでは、現在でもシックがトップを走っています。これは、世界的にみても非常に珍しい状況です。輸入自由化以降、インジェクターの輸入・販売に情熱を持って取り組んできた父と、私どもカミソリ倶楽部の努力が実を結んだ結果だと自負しております。また、その間にご尽力いただきました多くの皆さま方に衷心より感謝申し上げます。

竹内 康起

Yasuoki Takeuchi
株式会社カミソリ倶楽部 
代表取締役社長
1942年生まれ。東京都出身。シェービングの文化が浸透していなかった戦後日本で、カミソリの普及に大きく貢献したカミソリ専門店「カミソリ倶楽部」。シェービングに関する本質を追求し、強いこだわりを持つ専門特化を武器に、今までにないシェービンググッズの情報発信や販売を行なっている。主な著書に、「カミソリ史記」(日本マンパワー出版)、「竹内金蔵の生涯2005」(双樹社)、「THE WORLD BARBER TOUR」(KAMISORICLUB)など。
1942年生まれ。東京都出身。シェービングの文化が浸透していなかった戦後日本で、カミソリの普及に大きく貢献したカミソリ専門店「カミソリ倶楽部」。シェービングに関する本質を追求し、強いこだわりを持つ専門特化を武器に、今までにないシェービンググッズの情報発信や販売を行なっている。主な著書に、「カミソリ史記」(日本マンパワー出版)、「竹内金蔵の生涯2005」(双樹社)、「THE WORLD BARBER TOUR」(KAMISORICLUB)など。